August 18th is

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  August 18th is  




昼過ぎ頃に、ようやく、幽霊棟に戻った。

結局、山菜は取れなかった。ゼンマイくらいしかわからないのだ。あれは夏じゃなくて春だろう。

細い滝のようなものを眺めて、疲れて帰って来た。散々な誕生日だ。

「あ……。辻村」

幽霊棟の前で、原付に跨った白峰に会う。

白峰はぎくりとしていた。これみよがしに不機嫌に睨みつけてやると、俺ではなく、茅を見て、白峰は悲鳴を上げた。

「茅、どうしたの!?」

俺は今さら、茅の風体を視認した。衣服が千切れて乱れ、手首にはひどい痣がついている。

茅が余計なことを言う前に、俺がフォローした。

「吊り橋から落ちかけた茅を、俺が助けてやったんだ」

「大丈夫だったの、茅……」

そこまで立場を逆転させますか――という目で俺を見ていたが、白峰に心配されて茅は満足そうだった。終わり良ければすべてよしだ。

「どこ行くんだよ」

「ちょっとね。急ぐから」

「おい、待てよ! おい……」

話しかける俺を振り切って、白峰は原付を走らせてしまう。

俺は頭に来て、標識のポールを蹴飛ばした。話声の聞こえる幽霊棟に、ずかずかと踏み込んでいく。

食堂の扉を開けて、怒鳴りつける前に、清史郎の体当たりを受けた。

「来んな!」

「いて……っ」

炎天下を歩いて帰って来た俺は、色々なことがもう限界だった。清史郎の襟首を掴んで、どんと壁に叩きつける。

「なんだよ、テメエ! ケンカ売ってんのか!」

「そうだよ!」

「な……。なんでだよ!?」

言い切られて、俺は困惑した。清史郎に何かしただろうか。

清史郎は忙しそうに、和泉を呼び付ける。

「咲……。咲ー!」

顔の大きさほどもある板チョコレートを齧りながら、ひょろりと和泉が現れた。汗だくの俺をチョコレートで煽いで、気軽に腕をひく。

「煉慈、教会行こう」

「嫌だよ。暑いんだよ、涼ませろよ」

「まあまあ」

意味ありげに和泉とハイタッチを交わし合って、清史郎が食堂に消えていく。俺の背中を押して、和泉は玄関へと押し出した。途中で、浴室に向かう茅とすれ違う。

「また出かけるのか。暑いから気を付けて」

人ごとのような茅の態度にむかつきながら、俺は和泉に怒鳴った。

「教会なんて用はねえよ! シャワーぐらい浴びさせろ!」

「誠二の部屋のを借りよう。あそこのシャワー、蛇口が面白い」

「知るか!」

「ジュース、奢ってあげる」

和泉の一言に、俺は動きを止めた。

よっぽどのことがなければ自腹を切らない和泉が、ジュースを奢るという。

幽霊棟を出ながら、俺は和泉に尋ねた。

「もしかして、なんかこう……、準備でもしてるのか」

「何の」

「何のって……」

大きな瞳が、じっと俺を見上げる。

ふう、とため息をついて、和泉はゆるやかに首を振った。

「あそこにいたら、色々、まずかったから」

「まずいって、何が?」

「瞠が清史郎に告白してた」

「嘘だろ!?」

「マジ」

俺はもう一度、幽霊棟を振り返った。ぐいっと腕を掴んで、和泉は先に進んでいく。

「詮索はだめ、煉慈」

「久保谷、そうだったのか……」

友人たちの秘密を知って、俺はどきどきしていた。

どうりで母親のように、清史郎の世話を焼くはずだ。あれは恋だったのだ。俺もいちいち、寛子の世話を良く焼いた。

動悸が激しくなって、冷や汗をかく。いったい、どんな顔であいつらに向き合えばいいのか。いや、俺は文化人だから、偏見はないはずだ。

「それにしても暑いね」

灼熱の太陽を見上げて、和泉は汗を拭った。

とろとろに溶けていくチョコレートを齧りながら、むっと眉を寄せている。珍しく、口汚く罵った。

「清史郎の奴――。テメエが外に行けってカンジ」

相当、暑いんだろう。

ぽたぽたと地面に落ちたチョコレートに、蟻が近づいてくる。牧師舎につく頃には、和泉の顔と両手は、チョコレートでべたべただった。

俺は彼の代わりに、インターホンを押して、ドアノブを開けた。



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