January 29th is

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  January 29th is  


  【10月20日 21時】


「――宴もたけなわとなって参りました!」

人を脅迫しておきながら、オカマは白々しく、幹事役で盛り上げていた。

すき焼きは仕上げのうどんに入っていた。醤油の煮詰まった匂いがたまらなく美味そうだ。

ケーキの代わりだと、固い菓子パンを出された。

中には胡桃やらドライフルーツがぎっしり入っている。

「残念だな。本当は蝋燭を刺して、吹き消して欲しかったのに」

「そんな恥ずかしいことするかよ」

子供たちはすまなそうな顔をした。理由を尋ねると、プレゼントが用意出来なかったという。

「スーパーで買いだしする時間しかなくてさ。急だったから」

別にいいのに。第一本当の誕生日でもない。

俺よりも、子供たちの方が、残念そうだった。

「代わりと言ったらなんだけど、プレゼントになるようなもの、みんなで探して来たんだ」

申し訳なそうなもやしの声を合図に、彼らはいろんな物を差し出した。

「着なくなったカーディガン……」

「贈答品で頂いたタオル……」

「ねりけし……」

「買ったけど履かなかった靴下……」

「衝動買いした知恵の輪……」

「なんていうか、フリーマッケットだな」

適当に礼を言って、俺はプレゼントを受け取った。

彼らは俺の反応を見て、またがっかりした顔をした。どうやら、わっと言わせたかったらしい。

清史郎もそうだった。

何かを工作して、俺によこすたび、大声を出して感激してやらないと、小さな肩を落としていた。

ため息をついて、俺は微笑んだ。

「ありがとう、嬉しいよ」

彼らはちらりと俺を横目見た。

「別に喜んでないくせに……」

「無理しなくていいよ……」

高校生は幼稚園児より面倒くさい。

「そんなことはない。カーディガンは寒い時に着れるし、筋トレの後タオルで汗が拭ける。ねりけしは良くわからんが練ってみる。靴下も便利だ。知恵の輪も、あれは便利だ」

「……やっぱり、買いに行けば良かったな……」

「……本当はもっといいの、考えてたんだけどな……」

世辞は伝わらなかったようだ。

俺はだんだん面倒くさくなった。なんだって、気を使ってやらなければいけないんだろう。

普段なら、出てけと言って、布団にもぐりこんでいる所だ。

だが、自分の吐いた嘘のせいで、後ろめたさが手伝った。

彼らも同じなのだろう。

後ろめたさを埋めるために、喜ばせることを探している。

仮想の誕生日を、仮想の友好で祝う。

皮肉なものだ。

馬鹿らしいと吐き捨てることは出来ず、俺は小さく苦笑した。

「なら、あれでいい。肩叩き券で」

「肩叩き券?」

「ああ。皿洗い券だとか、片付け券とか、そういう類の」

投げやりに話す俺に、オカマが目を細めた。

「いくら、清ちゃんと同じ歳だからって、あんたと一緒にいた頃の清ちゃんと同じ扱いするなよ」

「俺の弟の方がマシだった。少なくとも、肩叩きくらいしたからな」

ペンを持ってくるように、俺は子供たちに伝えた。

部屋を出たオカマが、油性ペンを持って戻って来る。

キャップを齧って開けて、俺はオカマの手を引き寄せた。

「わっ……、何すんだよ」

『一曲歌う券』と俺はオカマの手のひらに書いた。

オカマは笑みを引き攣らせる。

「こいつ、調子に乗りやがって……」

「チケットを使うと言ったら歌い出してくれ。――次、デコ」

ぶつぶつ文句を言いながら、デコは俺の前に立った。

渋々手を差し出しながら、目は興味心身にペンを追いかけている。

『好きな飯を作る券』と、デコの手のひらに書いた。

「好きな物って何だよ」

「肉」

「どんな肉?」

「思いついたら伝える。――次、眼鏡」

眼鏡は大人しく目の前に立った。何が起きてるのか、半分わかっていないようだった。

「手のひらに書かれたことをすればいいんですか?」

「ああ」

「どうして、僕が貴方の言うことを聞かなくちゃいけないんです?」

「誕生日だからだ」

「僕の誕生日もこうしよう」

俺は迷って、眼鏡の手に『チェンジ券』と書いた。

「チェンジ券……?」

「俺がチェンジと言ったら、他の奴と当番を変わるんだ」

「はあ」

「いいか。どんな状況でもだ。絶対だぞ」

「わかりました」

手のひらを見つめながら、眼鏡は去っていった。

「次、もやし。………」

もやしの手を引き寄せて、俺は顔を上げた。

「……おまえは何が出来るんだ?」

「えっ。何でも出来ると思うけど、そう言われると何も出来ないかも……」

「まあいいか」

俺はもやしの手に『一曲踊る券』と書いた。

「えー! 恥ずかしいよ、これ!」

「オカマの歌に合わせて踊ればいいだろ」

「どうしよう。仮面舞踏会とか覚える……?」

「ハルたん、無茶ぶりッスよ」

「――次、チビ」

オカマと相談するもやしと交代に、チビが目の前に立った。

「おまえも何が出来るかわからないな」

「僕もわからない」

俺は少し考えて『足を押さえる券』と書いた。

「何これ」

「腹筋する時に足を押さえる」

「なるほど」

にやりと笑って、チビは自分の拳にキスした。

「楽しそうだ。六つに割れるまで、乗っててあげる」

選択を誤ったかもしれない。

俺はペンの蓋を閉じて、彼らを見渡した。

子供たちの表情に、愛想笑いではなく、自然に笑みがこぼれた。

役目を貰った彼らが、そわそわと、困惑と好奇心を混ぜている。

いびつなチケットを作っていた弟のように。

「誕生日を祝ってくれてありがとう。そのうちに使わせて貰う」

口端を上げて、俺は目を細めた。

「それまでに、練習しておけよ」


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