カマキリロシアンルーレット
嵐の夜に死んだ友達が、生きていた頃のGWの話です。
その頃、僕らは学生寮に住んでいた。
僕らは良く知っていた。
あの子が――御影清史郎がGWの長期休暇を、とても楽しみにしていたこと。
ハイキングの計画もバーベキューの準備もしていたこと。
家族旅行の誘いの電話に「半分家族じゃねえし! 俺のじいちゃんじゃねえし!」と本気で怒鳴り返していたこと。
一晩中文句を言いながら、半べそで荷造りをしていたこと。
だから、あの子をかわいそうに思って、出来る限りのお願いなら、聞いてあげるつもりでいた。
こういう類のものでなければ。
<カマキリ・ロシアンルーレット>
とてもとても寂しいので、俺が発明したゲームをやって、みんなで報告のメールを下さい。
絶対絶対絶対やってください。
ルール1:一晩ずつ順番に卵を部屋ごと回してください。
ルール2:箱にしまったらいけません。
ルール3:孵化した部屋が負けです。
【0429】光智寮 339号室
「…………」
久保谷はじっと見つめていた。
木の枝にくっついた軽石のようなもの――カマキリの卵を。
(みんな馬鹿だ)
久保谷は目を閉じた。清史郎を馬鹿だ、アホだと言いながら、結局みんな実施に踏み切ってしまった。
カマキリ・ロシアンルーレットやらの実施に。
初日の夜は久保谷と清史郎の部屋に当たった。清史郎は不在だから、今は久保谷だけの個室だ。
久保谷は正直に清史郎を恨んだ。カマキリの卵や幼虫の大群が怖いわけじゃない。
これから発生するだろうトラブルについてだ。
こうなってしまったら、願うことは一つだけだ。
(――俺の部屋で孵れ)
強く念じながら、久保谷は卵を見据えた。
(俺の部屋で孵化するのが、一番トラブルが少ない。――いいか、今夜中に生まれろ。カマキリの子らよ!)
新妻の出産を見守る夫の気迫で、久保谷はカマキリの前に正座した。
あらゆる可能性を久保谷は試した。タオルで暖めてみたり、拍手を打ってみたり、呼びかけて励ましたりもした。
一晩中、久保谷はベストを尽くした。
だが、久保谷も知っている通り、彼の願いはいつも裏目に出るのだ。
朝の光に、久保谷はうなだれた。
(絶対生まれるなって念じるべきだった……)
――朝を迎えたカマキリの卵は、いい感じに亀裂が入って、緊迫感を増していた。